ミオドコーパについて

ミオドコーパの眼

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ミオドコーパには2種類の光受容器がみられます。 複眼compound eyesと中央眼median eyeの二種類の眼により、個体間の信号伝達と環境光の検出を行っていると考えられています。

右写真はCylindroleberis sp.のオスの側面および上面像です。 緑色の矢印は複眼を、赤色の矢印は中央眼を示しています。 複眼は色素が濃く、容易に見いだす事ができますが、中央眼は小型であることと側面からは左右の第1触角の間、上面からは背甲ヒンジの直下にあたるためにやや見いだしにくくなっています。

複眼 compound eye

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ミオドコーパの内、Myodocopidaに属するものの多くが複眼を持っています。 複眼は体側面にあり、左右一個ずつで一対です。筋肉で軟体部に接続されており、若干の可動範囲を持ちます(Huvard 1990)。

右の写真はウミホタルVargula hilgendorfiiのオスの右複眼です。左側に伸びている眼柄stalkを介して軟体部に接続されます。 球状の個眼がたくさん集合しており、複眼全体が薄い膜に包まれています。

中央眼 median eye

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中央眼は全てのミオドコーパに備わる感覚器です。

単純なレンズ構造と光を感知する視細胞、そして反射鏡構造から構成されています(Huvard 1990)。 中央眼は3つのチャンバを持ち、それぞれのチャンバが個体の正面と両側面を向いている事から、方向性を持った環境光検出に用いられていると考えられています。 右の写真はウミホタルVargula hilgendorfiiの中央眼のヘマトキシリン/エオジン切片です。 個体を上部から見た方向で、左側が前方になります。 3つのチャンバーが色素をもった隔壁で仕切られている事がわかります。

上記したとおり、複眼に比べやや見いだしづらいのですが、反射鏡構造が特有の金属光沢を持つ事から顕微鏡下では光源の方向を調節する事で輝いて見える事があります。

視物質

ミオドコーパの眼には光受容タンパク質であるオプシンが存在し、これにより光検知が可能になっています。ミオドコーパは複数のオプシン遺伝子を持っており、それらは2種に大別されてそれぞれが複眼と中央眼で発現しています(Oakley and Huber, 2004)。

ミオドコーパの視物質の吸収波長は460nm付近をピークになっています(Huvard, 1993)。これは生物発光を行う種の発する光のピークと一致しています。Huvardは複眼と中央眼を一括して吸収波長を測定していますが、他のピークは観察されない事からヒトの様な色覚は持っていないと考えられます。

眼のバリエーション

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ミオドコーパには複眼がある、とは言っても全てのミオドコーパにある訳ではありません。 Philomedidaeのメスではあまり発達しませんし、MyodocopaをMyodocopidaと共に二分する大グループであるHalocypridaでは見られません。 複眼が獲得されたのがHalocypridaとMyodocopidaが分岐した後だと考えられています(Oakley and Cunningham 2002)。 また、光の届かない深い海に生息するものや、海底洞窟に生息するものでは二次的に複眼が消失しています。 右図は1000m程度の深度に生息するCylindroleberididaeの一種です。 見ての通りあるべき位置に複眼が見当たりません。

深海に生息するGygantcypris属では、中央眼が肥大化し、またレンズ部が背甲と融合しています(Land 1984)。 この形質は極めて微弱な光を検知する上で有利な形状で、深海に生息するコペポーダなどが発する生物発光を捉えて捕食しています(Moguilevsky A, Gooday AJ 1977))。

視界確保

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ミオドコーパでは複眼は背甲の中にあります。 よってクリアな視界?を確保するためには背甲の形状や構造は何でもOKという訳にはいきません。 背甲に模様がある種でも、複眼部分には模様が無く透き通っていますし、背甲表面の彫刻が発達しているものでは複眼周辺のみやや平滑になっています。 眼を備えているものにとっては視覚はやはり重要なものの様です。

References

Huvard, A. L. (1990) The Ultrastructure of the compound Eye of Two Species of Marine Ostracodes (Crustacea: Ostracoda: Cypridinidae). Acta Zoologica vol. 71 (4) pp. 217-223

Huvard, A. L. (1990) Ultrastructural study of the naupliar eye of the ostracodeVargula graminicola (Crustacea, Ostracoda). Zoomorphology vol. 110 pp. 47-51

Huvard A. L. (1993) Analysis of visual pigment absorbance and luminescence emission spectra in marine ostracodes. Comparative Biochemistry and Physiology Part A: Physiolog vol. 104A (2) pp. 333-338

Land, M.F. (1984) Crustacea. In: Ali, M.A. (Ed.), Photoreception and Vision in Invertebrates. Plenum Press, New York and London, pp. 401-438.

Oakley T. H. and Cunningham C. W. Molecular phylogenetic evidence for the independent evolutionary origin of an arthropod compound eye. PNAS 99(3) 1426-1430.

Oakley and Huber. (2004) Differential expression of duplicated opsin genes in two eyetypes of ostracod crustaceans. J. Mol. Evol. vol. 59 (2) pp. 239-49

Moguilevsky A, Gooday AJ (1977) Some observations on the vertical distribution and stomach contents of Gigantocypris muelleri Skogsberg 1920 (Ostracoda, Myo- docopina). In: Loffler H, Danielopol D (eds) Proceedings of the 6th International Symposium on Ostracods, Saalfelden, 1976. Dr W Junk, The Hague, pp. 263–270