ウミホタルについて

ウミホタルVargula hilgendorfiiの形態と各部の機能

ウミホタル写真

右の写真がウミホタルを左側面から撮影したものです。全長は3-3.5mm程度で、メスの方が一回り大きい身体を持っています。卵型に見える外見は背甲と呼ばれる殻の形状によるものです。背甲と呼ばれる殻が全身を包んでおり、左右二枚の殻が背側中心部の蝶番構造で接続され、ちょうど二枚貝の様な形状になっています。中央付近に接続された閉殻筋で自在に開閉する事ができますが、それほど大きく開く訳ではありません。前方にはスリットがあり、ここから付属肢を出す事ができます。よく目立つ黒い部分が複眼、茶色で大きい部分が消化器官です。鮮やかな黄色は発光物質の色です。

背甲

背甲各部名称

右の図は背甲各部の名称を示しています。左上が左から見た図で矢印が進行方向を示しています。左下が背側から見た図、右上が前方から見た図、右下が斜めから見た図です。

右殻right valveと左殻left valveが背側のヒンジ構造hingementで接続されています。 前方に突出している部分は額角rostrumと呼ばれています。殻の切り欠きincisureから遊泳肢を出す事ができます。

背甲の写真

右の画像はオスミウム固定したウミホタル成体♀の背甲(右殻)で、画像右側が前方にあたります。 背甲の主素材であるキチンは高い透明度を持っており、オスミウム処理後も透明なままですが背甲裏側の細胞層が黒く染色されており、いくつかの特徴を見出す事ができます。

網目状の模様は血管です。 背甲裏面にある薄い細胞層には血管が巡っており、常に血液を流し続ける事でカルシウムの結晶化を防ぎ、透明度が保たれています(Abe, 1994; Abe and Vannier, 1995)。

中央付近やや前方にある閉殻筋が接続している筋痕muscle scarがあります。 背甲に付着したままになっている筋肉の末端部が強く染色されています。

軟体部

ウミホタルメスのSEM画像

右画像は成体メスのウミホタルの左殻を剥がしたものの走査型電子顕微鏡写真。 左側が前方で、後部のegg pouchに卵が詰まっています。

背甲の内部に収められている軟体部には7対の付属肢と眼、心臓、消化器、交尾器、尾叉などが備わっています。軟体部と背甲は主に左右の閉殻筋と心臓付近で結合されています。 ウミホタルの軟体部には甲殻類において一般的に見られる様な体節がほとんど見られないという特徴があります(Cohen and Morin, 2003)。一つの体節に一つの付属肢が備わっているというのが基本構造なのですが、ウミホタルの軟体部には明瞭な体節が存在しません。ほとんどの体節が融合してしまっていると考えられています。

付属肢

付属肢はそれぞれが様々な機能に特化しています。

第1触角1st antennaは水の流れを感知するほか、オスでは小さな吸盤が備わっていてメスを捕まえる際に使用されます。第2触角2nd antennaは先端に沢山の長い剛毛が備わっており遊泳に用いられます。第2触角の基節は大型の筋肉が備わっており「筋柄目」の名の由来になっています。第3肢は大顎mandibleと呼ばれ、摂食の際に餌を把握するのに使われます。第4肢は小顎maxillaと呼ばれ、第3肢の補助を行っている様です。第5肢5th limbは多くの剛毛を備えた扇状の器官で、背甲内の海水に流れを与えるのに利用されています。 第7肢7th limbはチューブ状の付属肢で、清掃肢と呼ばれています。先端にブラシ状の剛毛が備わっており、軟体部や胚の掃除に用いられています。

背甲前端のスリットから第2触角を出して泳ぎます。また、背甲下端の開閉部分から付属肢や尾叉を出す事もできます。砂に潜る際には第2触角のほか、尾叉を利用します(Vannier and Abe, 1993)。

循環器系と呼吸

背側、複眼の上部に心臓があります。 右の動画の様に拍動していますがそれほど安定的ではなく、しばしば遅くなったり止まったりします。

心臓で加圧された血液は軟体部および背甲裏面に張り巡らされている血管を巡ります。 背甲裏側に広く展開されている血管は呼吸器としての機能を担っており(Abe, 1994; Abe and Vannier, 1995)、第5肢を動かして背甲前端から取り込まれた海水を背甲内に巡らせる事で呼吸を行っています。

光受容器

複眼と中央眼

ウミホタルは複数の光受容器を持っています。まず複眼があります。ウミホタルは左右一対の複眼を持っています。上に示したウミホタルの側面写真で黒くはっきりとした塊に見えるものがそうです。右の写真はウミホタルを正面から撮影した写真で、白矢印で示す黒い影が複眼です。 ウミホタルの複眼は昆虫などにも見られる小さなレンズ(個眼)が多数集合しているタイプの眼です。ウミホタルの複眼にはそれぞれの眼に18個の個眼が備わっています。個眼は昆虫に比べてサイズが大きく、その反面数が少ないタイプです。このタイプの複眼は弱い光でも効率的に感知する事ができます。個眼のサイズ、形状は460nm付近の波長に最適化されています。

複眼と中央眼複眼のほかに中央眼と呼ばれる光受容器があります。右の図の水色の矢印で示す部分で輝いているのがそうです。中央眼はレンズの他にtapetumと呼ばれる薄板多層構造による金属光沢状の構造色を示す反射部を備えています。反射部は湾曲しており、外部から届く弱い光を効率的に視細胞に集める事ができます。中央眼の内部は3つの部屋に分かれており、前方と両側面からの光を検知できます。右写真は中央眼の断面の組織切片写真です。左が個体の前方で、上が右方向になります。黒く見える色素によって分割された3つの部屋が確認できます。

複眼と中央眼 尾部にある反射性小器官にも中央眼と同様のtapetum構造の金属光沢が見受けられますが視細胞は無く、単純に光を反射するだけの器官です。この器官を用いて自分が出した光を任意の方向に反射させていると考えられています(Abe et al. 2000)。

上唇と発光能力

上唇部分には多くの分泌細胞が存在します。黄色く見えるのが上唇に蓄えられているルシフェリンです。発光に用いられるルシフェリン、ルシフェラーゼのほか、粘液物質などを生産、分泌する事ができます。

消化器官

ウミホタルの身体の後部にある大きな茶色の器官が消化器官です。エサを食べると大きくふくれ上がります。

References

Cohen, A. C. and Morin, J. G. (2003) Sexual morphology, reproduction and the evolution of bioluminescence in Ostracoda. Palaeontological society papers 9: 37-70.

Abe, K. (1994) The light of marine fireflies. 海蛍の光-地球生物学にむけて-. Chikumashobo, Tokyo. [in Japanese]

Abe, K. and Vannier, J. (1995) Functional morphology and significance of the circulatory system of Ostracoda, exemplified by Vargula hilgendorfii (Myodocopida). Marine Biology 124: 51-58.

Vannier, J. and Abe, K. (1993) Functional morphology and behavior of Vargula hilgendorfii (Ostracoda: Myodocopa) from Japan, and discussion of its crustacean ectoparasite : preliminary results from video recordings. Journal of Crustacean Biology 13:51-76.

Abe, K. Ono, T. Yamada, K. Yamamura, N. Ikuta, K. (2000) Multifunctions of the upper lip and a ventral reflecting organ in a bioluminescent ostracod Vargula hilgendorfii (Müller, 1890). Hydrobiologia 419: 73-82.